35 吉田 (Yoshida)
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橋上風韻

今の豊橋で、七万石の御城下だ。東海道筋で三本指に数えられる長い橋の下は豊川。じきに三河湾へ注ぐ。それで町には船大工や鍛冶屋の叩く物音や、魚の白身を練ったチクワ素材を蒸す匂いが充ちている。その音や匂いに目明きよりも敏感な瞽女と琵琶法師の一行が橋の上で行き合う。双方で街道情報を交換する。親切な旅籠や木賃宿、犬を放つ村、湧き水のある場所、稼ぎの良かった町の名など。放浪の中でいっとき心安らぐ会話。


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